【トニキャプ】Hello Goodbye
トニキャプ新婚企画向けに書きました。
世界観は、下記と同じです。
そういえば前回はスティーブ視点でしか書いてなかったので、トニー視点で書いてみました。
世の中にはこんな誓いの言葉がある。
『病める時も健やかなる時も永遠に共にいよう』
自他共に認めるリアリストな僕の持論は、こう。そんな無謀な誓いを立てるのは、愚か者のすることだ。
一時の感情で結ばれた赤の他人同士が、この先の一生を縛る約束なんて重すぎやしないか? 僕には躍起になって宗教改革を行ったヘンリー8世の気持ちがよくわかる。
とはいえ。これまでの人生で僕が一度も結婚というものを視野に入れなかったかというと、そうではない。数多の女性と付き合ってきて、彼女とならば……と想像したことがないわけではないさ。
特に僕の最も尊敬する聡明な女性、ペッパーとの交際中には真剣に家庭を持つことを考えた。今でもときどき想像するよ。パートナーとのくだらない喧嘩のあと、ひとつのベッドで背を向けあって寂しく眠る夜なんかは特にね。彼女と添い遂げていたら、僕は今頃どうなっていただろうか、と。
……それは、いまのパートナーと別れたいということかだって?
まさか。どうしてそうなる。そんなつもりは毛頭ない。向こうが別れると言ってきたって僕は断固として認めないぞ。
だからつまり。肝心なのはこのあとだ。リアリストである僕が、なぜ土台無理な誓いを立てたいと願うほど一人の人間に入れ込むようになったのか。それも性格が真反対で、趣味嗜好の異なる、口論が絶えないほどソリの合わない男を相手に。
きっかけは僕らが起こしたチームを巻き込む世紀の大喧嘩だ。あのとき、両親の仇である男と共に去るつもりなら父がつくった盾を置いて行けと言ったら、彼はあっさりと手放した。
決定的だ、と僕は思った。彼は、スティーブは僕を置いて行ってしまう。もう二度と会うことはないだろう。そう覚悟した……というのに。
まったくあの男ときたら、いつだって僕の思いもよらないことをする。なんと彼は別れて間もなく、旧式のガラケーをよこしてきたのだ。困った時は連絡しろなどという一方的なメッセージとともに。
そんなもの送り付けられたところで、連絡する気はさらさらなかった。というより、できなかった。
仕方ないだろう。あれほど派手な別れの後に一体なんと声を掛ければ良い? この件に関しては、さすがの僕でも、適切な言葉がひとつも浮かばなかったのだ。
しかし残念ながら地球を襲撃する宇宙人は僕らのアッセンブルを待ってはくれない。それにブルースも。
そう、実を言うと発信ボタンを押したのは僕ではない。ブルースだった。
「喧嘩をしてる場合か? ソーが死んだ。サノスがまもなく来る。そんな時に君らはまったく……」
そう言って僕が何年も押せなかった発信ボタンをあっさりと押したのである。
鳴ったコールは一度きり。
彼はすぐ出た。そして。
『……トニー?』
電話越しのくぐもった声で数年越しに名前を呼ばれた瞬間。安堵で胸が熱くなるのを感じた。
ニューヨークのあの戦いからずっと、僕は来たるXデーを恐れてきた。宇宙の強大な敵を相手に、どうすれば地球の人々を守れるのか。考えない日はなかった。
ペッパーから「考えすぎよ。もし家庭を持ちたいと思うなら、お願いだからスーツを脱いでちょうだい」と言われても、無理だった。彼女には申し訳ないが、これは僕の性分だ。僕はヒーローをやめられない。きっと僕はこの先も一生、死ぬまでヒーローであり続けるだろう。
宇宙の脅威に対し募る僕の不安を払拭してくれたのが、スティーブだった。頭はかたいし融通もきかないが、圧倒的なカリスマ性を誇っている。キャプテンがいるだけでまるで自分が無敵の戦士にでもなったかのような気分になれるのだ。代わりにシベリアでの決別以降、スティーブがいない日々は不安とトラウマに苛まれる地獄のような日々だった。
だからスティーブとの再会、共闘を果たしたあと、決意したのだ。二度と彼を失うまい、と。
ああ、わかってる。結婚の誓いを小馬鹿にしていた人間が、軽はずみに二度とだとか一生だとかいう重い言葉を口にする、その滑稽さは。
けれど願わずにはいられなかったんだ。病める時も健やかなる時もスティーブにそばにいてほしい。この先もヒーローであり続ける僕の人生には彼が必要だと確信していたから。
僕の願いが通じたのか、スティーブは僕の想いに応えてくれた。決してロマンティックなプロポーズではなかったのに、スティーブはすべてを汲み取り、僕の手を取ってくれたのである。
こうして二人は幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし……とはいかないのが、なんとも僕ららしいな。
先程も言った通り、僕たちの性格は真反対で、趣味嗜好も異なり、恐ろしくソリが合わない。
彼がイエスと言えば、僕はノー。彼が止まれといえば、僕はどこまでも突き進んでいく。そんな関係だ。
例に漏れず今朝も、認識の相違が要因で口喧嘩をした。
フライデー、君に聞いてもらいたかったのは、まさにこの話だ。ようやく繋がったな。
先程も伝えた通り、決してロマンティックな言葉ではなかったかもしれないが、僕はスティーブにプロポーズをし、彼は応えてくれた。書類上の手続きはないけれど、それをきっかけに二人で暮らし始めたんだから、当然、パートナーとして認めてもらえていると思うだろう? 少なくとも僕は思っていた。
だから「今日は1年目の結婚記念日だな、ダーリン」と甘く囁いてみたんだ。
ところがあの男。なんと返してきたと思う?
「トニーのことは大切だが、男同士で結婚はない……というか、できないだろう?」
と苦笑とともに返してきたのだ。ああ、もちろん、彼の過ごした時代ではアメリカ全土で同性婚が認められていなかったわけだから仕方ない部分はある。口論にまで発展したのも、僕がさんざんに彼の考えの古臭さをなじったからだということも分かっている。
けれどこれだけは「仕方ない」で済ませたくなかったんだ。
誰になんと言われようと、たとえスティーブが離れたいと言ってきたって、僕はこの先一生、永遠に、彼のそばにいることを願ってやまないのだから。
前置きが長くなったな。要するにフライデー。
僕らの関係を明確に定義するための書類上の手続きを、君には手伝ってもらいたいというわけさ。
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