【マクステマク】鶏が先か、卵が先か
レカペのイベントあわせでせっかくならとあげてみました。
弟分なスティーヴンもいいけど、精神的にお兄さんなスティーヴンもアリかなと。
俺とスティーヴンは兄弟ではない。もっと複雑で、歪な関係だ。
俺はスティーヴンと共にいるためだけに、葦の楽園とやらを引き返した。あいつの平穏な生活を守るためなら、代わりに消えたって良いとすら思っている。
弟のランドールにしてやれなかったことの全てを、俺はスティーヴンにしてやりたい。
だから決してスティーヴンをランドールの代わりとするわけではないけれど、俺にとってスティーヴンがどんな存在かを説明するならば……
「弟みたいな存在なんだよね」
さらりとスティーヴンから告げられた言葉に、俺は「ん?」と引っかかった。
[chapter:鶏が先か卵が先か]
日用品の買い出しのためマーケットへ出かけた帰り道。
体の主導をスティーヴンに渡した俺は、「不審に思われるから程々にな」と忠告したにも関わらず、休日に浮き足立って止まらないスティーヴンのおしゃべりに付き合っていた。
「残念ながら僕は本当の弟のことを知らないけど、でもマークといると弟ってこんな感じなのかなあって思うよ」
ぽやぽやとした調子で続けられた言葉に、俺はたまらず突っ込んだ。
「……弟はお前だろ?」
世間一般の兄弟のイメージといえば、幼い弟をしっかりした兄が支える構図が浮かぶだろう。俺は精神的に不安定だし実の弟を守れなかったけれど、それでも天然で抜けているスティーヴンを支えてやるべく日々努めている。
そもそもスティーヴンは俺から生まれたのだから、やはりこいつは兄にはなりえない。
「でも僕はグラント博士で、きみを守るためにいるんだよ?」
危険を省みず、スティーヴン・グラントは恐れ知らず。助手のロッサーを率いて勇敢に冒険する『トゥーム・バスター』の主人公だ。
スティーヴンは彼を反映して生まれた。弱かった俺を守るために。
「それにさ、本当の兄弟だったら後から兄ができることはそうないけど、僕らだったら、ほら。簡単だ。いつだっていつまでだってそばにいられちゃうんだから。最高だと思わない?」
スティーヴンはどんなときも前向きだった。
昔からそうだ。俺には一生かかっても思い付かないような言葉で俺の心を慰めてくれる。
「だから、大丈夫だよ。マーク」
ゆるやかに入れ替わると同時に、つと涙が頬を伝う。
ふいの優しさに触れ、熱くなる俺の目頭を癒やすように、
「きみには僕がついてるからね」
手鏡の中のスティーヴンが微笑んだ。
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