【マクステマク♀】Peace, Love , and Understanding
※MCU世界線のマクステマク
※マーク女体化、でもスティーヴンの性自認が男で、左右がどうというよりお互いが一番みたいな関係性というかなり読む人を選ぶ内容です
本編完結してますが、マーク視点の書き下ろしを添えた本を発行してます
コンスの契約から解放され、これからはマークと二人で自由に生きていくんだと胸を躍らせた日。またひとつ、ぼくの不鮮明な記憶……これまで意識してこなかった部分のベールが解けた。
ぼく、スティーヴン・グラントは、マーク・スペクターの心を守るために生まれた人格だ。この真実を知った時は正直かなりショックだったよ。けど、いまはもう受け入れている。だってぼくはマークのことが好きだし、マークもぼくを必要としてくれているからね。それってとても素晴らしいことだと思うんだ。
だからぼくがマークの生み出した人格の一つだってことはかまわない。マークの秘密は、いつだって大切な人を守るための秘密だってこともわかってる。
「あのさ、マーク……」
わかっているけど。
「…………きみ、女の子だったの?」
さすがに、これはもっとはやく知りたかったな。
想像してみてほしい。
これまでずっと自分のことを男だと思って生きてきて、女の子と話したことがほとんどなくて。でもいつかはまともに話せたらな、もっと言えばオシャレなレストランで素敵な女性とデートなんかできたら最高なんだけどな……などと夢見ていたところに、ある朝、鏡を覗き込んだらそこに自分の顔をした女性が映り込んでいた時の衝撃を。
三面鏡の前で、鏡に映る自分と実際の自身の体を何度も見比べる。脂肪がつきやすい体だという自覚はあったけれど、それにしたって胸の二つの膨らみは主張が激しすぎた。
鏡の中のぼく……正確には、ぼくとそっくりの見た目の彼、いや、彼女? は気まずそうに視線をそらす。
「どういうことか説明してよ、マーク!」
鏡に詰め寄ると、マークはようやく重い口を開いた。
話はマークの生まれた頃まで遡る。
ぼくらの母さんは男の子が生まれてくることを望んでいた。だが生まれてきた子は女の子だった。
諦めきれなかった母さんは、その子にマークと名付け、まるで息子のように育てたのだという。
彼女の愛し方はたしかに歪んでいたと思う。それでも二人目が生まれてくるまではまだ良かった。母さんの愛情はたった一人の子どもへ、マークへと注がれていたから。
けれどマークの弟のランドール(正確にはぼくの弟でもあるが、残念ながらぼくには彼との交流の記憶がない)が生まれたことにより、徐々に母さんの様子が変わっていった。それは父さんも気付かないような些細な変化だったけれど、少しずつ、確実に。
「母さんは息子を望んでいたんだ。おれは彼女の望む子に生まれてくることができなかった。だから母さんが弟をかわいがるのは当然で……実際、弟はかわいかったしな」
マークとランドールは本当に仲の良い姉弟で、二人はいつも一緒に遊んでいた。弟が楽しそうに笑っている限りは、母さんもなにも言わなかった。ただ「ランドールに危険なことだけはしないで」と、これだけはしつこく言い聞かされていた。
「おれとロロ……弟は『トゥーム・バスター』の大ファンで、探検ごっこが好きだった。母さんも男の子は少しくらいやんちゃで勇敢な子のほうが良いとよく言っていたし……ああ、わかっているよ」
本当は、ロロはどんなに臆病でもよかったし、男じゃないおれは、彼を諌める存在でなければいけなかったんだ。
そう言って、鏡の中のマークが自嘲した。
ぼくの頭には彼女にかけてあげたい言葉がいくつも浮かんだけれど、結局うまくまとめられなくて。
ぼくは洗面台の三面鏡から離れ、衝動のままにベッドサイドの手鏡を手に取ると、それをぎゅっと胸に抱き込んだ。
ああ、どうしてぼくたちの身体はひとつなんだろう。メセクテトの船の中のように、個々の身体を持てたら良いのに。そうしたら鏡なんかじゃなくてマーク自身を抱きしめてあげられるのに。
「……ごめんな、スティーヴン。おれはずっとお前を騙してた」
ぽつりとマークの口から謝罪の言葉が溢れる。その声は小さく、震えていた。
ぼくは反射的に、
「マークはなんにも! 悪くないよ!!」
と、自分でも驚く程大きな声でマークの言葉を否定した。
言ってからはっと我に返り、「あ、ごめんね……大声出して」と謝ったけれど、発言自体を取り下げるつもりはない。
「マーク。聞いて」
ベッドの上で座り直し、鏡の中のマークと改めて向かい合う。そうして先程はまとまらなかった言葉をひとつずつゆっくりと紡いでいった。
「まずは、話してくれてありがとう。思い出すのも辛かったよね……きみは優しいから、ぼくに嫌な思いをさせないよう伏せていてくれたんだってわかってるよ」
マークにはきっとたくさんの苦労があったと思う。ぼくがぼんやり過ごしている間、母さんのことも、自身の性別のことも伏せて、ぼくがぼくとして平和に暮らせるよう努めてくれていたんだろう。
「今朝、ぼくの意識が自分の体へ向いたのは、これから二人で一緒に生きていくためだよね?」
鏡の中でマークが頷く。
「……もうお前に隠しごとをしたくないって、そう思ったから。けど……受け入れ難いよな。本当にすまない。母さんの望む男の子でありたいというおれの身勝手な思いをお前に押し付けてしまった」
出会ったときは無愛想で得体が知れなかったマーク。彼女のことを恐れていたのがウソみたいに、今はどこまでも愛おしい。
「たしかに、戸惑ってないって言ったら嘘になるよ。だって、ぼく、女の人の裸ってみたことないし……あ、いや、見たことないって思い込んでたから。慣れるのには時間がかかると思う」
でもぼくはそれ以上に、マークがぼくらの共存のためにと打ち明けてくれたことが嬉しかった。不安そうにこちらを見つめるマークに、続けて語りかける。
「ねえ、マーク。ぼくたちはもう自由だ。母さんからもコンスからも解放されたんだからね」
だから教えてほしい。マークが本当にしたいことを。
「おれは……」
今まで自分の希望を聞かれたことがなかったのだろう。言い淀むマークに、ぼくは助け舟を出すことにした。
「ぼくのしたいことはね……」
オシャレなレストランで食事がしたいな。
きみと一緒にね。
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