2025.03.28 18:25城砦に来る前の四仔の話 友人から密入境の誘いを受けたのは十月の中頃のことだった。誘われなければ、思いもつかなかったと思う。そんな大それたことは。 入境後の成功譚は風の噂で時折り耳にしていた。界限街まで辿り着いてIDカードを手に入れ、贅沢な生活を謳歌する同胞たち。夢溢れる話に、若い俺たちは胸を躍らせた。 「これからなにかと金がいるだろう?」 友人のこの言葉が最後のひと押しとなった。生まれ...
2025.03.28 18:1913歳のときの十二少が龍兄貴に救われる話 トリップするのはきもちいい。いやなことをぜんぶわすれられる。なにもかんがえられなくなって、バカになりそう。まあべつにどうでもいい。どうせもともとあたまのデキはよくないから。 アヘンよりヘロインのほうがマシ。なにがどうマシなのかと売人に聞いたら、「ヘロインは戦争を引き起こしてないだろ」とラリった笑顔で返された。よくわからなかったけど、マシなほうが良いか。それ以上深くは考えず(考えたとこ...
2025.03.28 18:16まだ龍兄貴といたいので、大人になりたくない信一の話 はやく大人になりたかった。祖哥哥のような。哥哥のそばにいて恥ずかしくないような。強くて賢くてかっこいい大人に。 「それならもっと冷静になれ」 俺の頬から垂れる血を哥哥が親指で拭いながら言う。喧嘩をして帰ってくるたびにかけられる言葉。冷静になれ。 それができたら苦労はしない。もう理由も忘れてしまったけれど、向こうが先に俺を怒らせるようなこと...
2025.03.28 18:09信一×四仔無配「四仔って料理得意?」 勝手知ったるといった調子で図々しく診療所に居座る信一から尋ねられ、作業の手を止める。 料理を得意か不得意かで考えたことはない。生存に不可欠な栄養素を摂取するため、必要に迫られたらつくるだけ。それすらも億劫で七記冰室で済ませることが多い。つまり。 「得意じゃない」 薬を煎じる手を再び動かしつつ、背を向けたまま答える。これで終わりだ...
2025.03.28 18:07十二少×四仔無配 半分城砦の住人。信一が俺を紹介するときに使う言葉だ。実際その通りで、俺は週の半分くらいを城砦で過ごしている。もちろん虎哥哥の許可のもとで、だ。虎哥哥と龍哥哥が義兄弟ということもあり、城砦に危険が及ぶような事態があれば俺たち架勢堂も黙っているわけにはいかない。龍哥哥が対処できない事態なんてそうないだろうという点さえ目を瞑ってしまえば、俺が城砦にいる大義名分はじゅうぶん。堂々と居座れるというもので。...